
♯22
上山を紙山にする野望
土屋稚(わか)さん
上山の温泉街の一角に秘密基地のようなお店がある。2020年にオープンしたおかげさま文房具店だ。店主の稚さん自身がレトロな文房具に施されたキャラクターのような個性を放ち、文房具という人類の共通項を切り口に、多様なコミュニケーションを生み出している。
文房具好きだから文房具屋になろう!
もともとは介護福祉士を13年間していました。結婚・出産を機に退職し、復帰後は好きなことを仕事にしようと思って、何が好きかなと考えた時に「あ、文房具好きだから、文房具屋さんになろう」と思って2020年に開業しました。小さな頃からの夢とかではなくて、ただ好きだからという理由です。
文房具は小学生の頃から好きで、駄菓子より文房具にお小遣いをつぎ込む子供でした。ペンケースの中に作る世界観が好きで、1週間に1回はペンケースを替えていて、100個くらい持ってましたね。文房具を使うために学校に行っていたような感じです(笑)。文房具を使いたいから勉強もはかどる。福祉系の資格を取るのも文房具のおかげで楽しかったです。
文房具があれば仕事のモチベーションも上がるし、人と人を繋ぐコミュニケーションツールでもあるなと思います。お店に来られた方も入った瞬間に「懐かしい!」「これ使ってた!」と盛り上がるんです。コミュニケーションが広がっていくのを見ているのが楽しい。文房具は誰しもが絶対に通る道だから話が盛り上がるんですよね。
勝手に上山観光大使
上山が好き過ぎて、勝手に上山観光大使もやってます。最初は文房具の小売だけだったのですが、好きな文房具を通して上山を広められたらなーと思って、上山市に特化した物を作りたいなと思っていました。山形弁が書いてある定規とか、上山市の形のクリップとか、県内の画家さんとコラボしたグッズとかオリジナルで作って販売しています。文房具のイベントに出店するときは、勝手に上山市のパンフレット添えて「上山に来てください!」って言ってます(笑)。
上山の魅力は浅過ぎず深過ぎない適度な距離感。干渉し過ぎないというか。やってくれる時はやってくれるし、引く時は引くし。
止まらないアイデア
私、液体がインクに見えるんですよ。だから、液体をインクにしたい願望があって。ワインがインクに見えたので、上山ワインのインクを作りたくて。当初タケダワイナリーの「ルージュ」をイメージしたインクを勝手に作ったのですが、コラボできるんじゃないかと思って、タケダさんにお問い合わせフォームから熱烈な長文を送ったら、すぐに返事が来ました。社長がここに来たことがあったようで、文房具大好きな方でめっちゃ話が盛り上がって。「実は勝手に作りました…」、「いいねこの色!」と、とんとん拍子でインクのパッケージにタケダさんのロゴ使わせてもらえることに。
「畳を持ち歩こう」をテーマにし畳にちなんだ文房具も作っています。畳が好きで、たまたまカフェで畳のコースター見て「これだ!」ってなって。すぐ地元の畳屋さんの5代目に電話して一緒にやりましょう!って。畳表を見た瞬間「これはペンケースだね」って即決でした。端材を使っているのでSDGsですし、畳屋さんとしても畳をもっと盛り上げたいっていう思いが合致して。オーダーストップ中なくらい人気です。
上山の「上」をペーパーの「紙」にしたいという夢もあります。第一弾として加勢鳥の藁蓑(わらみの)をすき込んだ紙を作りました。縁起の良いものなので、のし袋、のし紙、婚姻届、包装紙を作りました。第二弾は畳のイグサをすき込んだ紙のノートとメモ帳です。
商品企画以外にイベントも企画しているのですが、特に力を入れているのが「上山文房具フェスティバル(かみぶんフェス)」。2021年から全国からメーカーさんや小売店を呼んで上山市でやっているイベントで、ここ2年はワインバルの日に合わせてやっています。酔ってお金に糸目をつけずに買ってもらえるので(笑)。
福祉の仕事が活かされている
小6の時にJRC部に入っていて、老人ホームにボランティアに行ったのがきっかけで介護の仕事に興味を持ちました。もともとじいちゃん・ばあちゃん子だったので、お年寄りが好きで。ボランティアに行った施設に自分で履歴書持っていって「ここに勤めたいです」って。やりたいと思ったらやる子でしたね。
福祉の仕事もすっごい楽しくて、極めたいと思っていました。事業所立ち上げたいなとも思っていて、それが文房具屋になっただけです。例えばケアマネージャーは福祉サービスを利用者さんに繋げるのが仕事。今の仕事も人と文房具を繋げる点で同じだと思うんです。だから、全部活かされているなって。
歌って踊れる文房具屋としてもSNSで注目を集め、ハンズ銀座店からポップアップの依頼があったという。商品は国内を飛び越えてシンガポールまで広がっている。今年からコンサル業も始めたという稚さん。企画や営業代行、販路開拓まで、その活動範囲はとどまることを知らない。















