♯15
街の中華料理店から広がる人生
結城艶子さん
1975年創業の中華料理店・天竜飯店の女将。珈琲の焙煎からボランティア、旅の案内まで、自分にできることはつい引き受けてしまう。その背景には持ち前の明るさとサービス精神、そして大病を経験して気づいた人生の教訓があった。
病気を機に生まれ変わった
実は数年前に病気が見つかったんです。先が長くないかもしれないから生き方を変えようと思って、羽黒山で生まれ変わりの修行をしてきました。本当は滝に打たれちゃいけない体なんだけど(笑)。そこで、言われたことをNOって言わない精神を作ってきた。何でも「受けたもう~」って精神ね。あと私、おもしろい人って思われがちだけど、そもそもおもしろくもないし、それで売ってないからね(笑)。
若くして嫁ぎ、学びながら店を営む
天竜飯店はもともと夫の両親が営んでいて、私はここに嫁いできたんです。夫とは高校時代にアルバイトをしていた焼き鳥屋さんで出会って結婚しました。嫁いだ頃はまだ若かったし、自営業のお店だと、自分が決めたこと全部が当たり前になっちゃう。怒ってくれる人もいないし。それが嫌で、朝だけ上山のホテルに働きに出ていたんです。朝5時から11時まで働いて、そこから自分のお店に戻って22時まで切り盛りする生活が10年以上続きました。ホテルでは料理の出し方や季節感の見せ方を学んだり、売店を任せてもらうこともあったので、数字の勉強もさせていただきました。今は中華料理がメインですが、もともとは焼肉屋。今は何がダメっていう時代じゃないので、お客さんに合わせた美味しいものを出せればいいのかなと思っています。お客さんあっての天竜だから。
お客様を喜ばせたい想いは常識を超える
お得意様を飽きさせたくないと思って、内装も工夫してみました。中に入った時の驚きを提供したいし、それが私の楽しみでもあります。だから申し訳ないのだけど、店内の写真撮影はNGね。珈琲豆の焙煎は数年前から始めました。珈琲屋を巡るのが好きだったし、病気した時に珈琲が体にすごくいいというのを何かで見て。最初は味見程度にお客様に出していたのですが、市役所の方に美味しいって言っていただいて、上山のふるさと納税の商品に出すことになりました。結構好評いただいているみたいで、ありがたいです。
人をつなぐ役割
移住者の方には、なぜか最初にうちを紹介されます。まず天竜行ってみたらって。もともと私も上山の出身ではないから、外から来る寂しさとか心細さとかわかるので、連れ回して街や自然を案内したり、美味しいところも紹介したり、人と人を繋いだりしています。紹介すると自然に縁が広がっていくからね。ただ、常に店に誰かがいて精神が休まらない(笑)。だから私時々寝ちゃうんです。もう勝手にやってくださ~いって(笑)。旅行者の方も話しかけてくれたらいくらでも話しますよ。行き先に悩んでいたら旅行ルートを決めてあげる。せっかく上山に旅しに来たのなら、何か思い出を持ち帰ってもらいたいから。
死ぬより全然いい
羽黒山で修行してからは表に出るようになりました。楢下地区で茅葺き屋根用の茅刈りのボランティアをしたり、空き店舗や空き地を活用した「まちなかマルシェ」っていうので、駅前の空き店舗にお店を入れて1ヶ月間明かりを点ける取り組みに参加したり。結果的にいろんなお店が1ヶ月間切れ目なく入ってくれました。ただ、ボランティアとか、人前に出ると何か言ってくる人はいるよね。今はそれすらも楽しみにしてる(笑)。そこで得られる縁って必ずあるし、死ぬよりは全然いい。何もしなければ何も変わらないから。でも、前まではそっとして置いて欲しいタイプだったのよ(笑)。
元気な艶子さんの周りには自然といつも人が集まります。気づくとお客様同士で会話が弾んでいて、そこから仲良くなって、次は一緒に来店することも。 「ご縁が巡って、いろんな方の人生の一部に関わってるのが素敵なこと」と艶子さんは話します。お店の人気メニューはラージャン麺。チャーハンと餃子もオススメとのことです。