上山ラプソディ

かみのやま温泉の原点・共同浴場の守り人

♯8

かみのやま温泉の原点・共同浴場の守り人

浦山文一さん

上山に4つある共同浴場の一つ、新丁温泉共同浴場鶴の湯管理人。この時代に150円という破格の入湯料で運営している。上山の名所でもある共同浴場を守るために陽気に奮闘中。

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風吹くなー!!

鶴の湯の始まりは、明治・大正時代あたり。木枠を作って溜めた湯の中で野菜を洗っていたそうです。井戸端会議する場所にもなっていたのかもね。その後、少し広げて掘っ立て小屋みたいなものを建てて、足湯みたいにして入ってたみたい。昭和に入ってから、現在の場所に移って共同浴場になった。強烈に記憶に残っているのは、男風呂と女風呂の仕切りの下部が空いていたので、水中メガネかけて潜っていたことですね(笑)。でも老朽化で地区の予算でもどうにもできなくなって行政にお願いすることになった。今の建物は昭和33年くらいに建てられたものなので、かなりガタがきています。東日本大震災の時に風呂の浴槽の大理石に段差ができたりしました。だから大きい風吹くと「風吹くなー!!」って(笑)。言っちゃうんですよ、クセで。風に対して。「ほだい吹いておもしろいのかー!!」って。

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共同浴場の灯を絶やさないために

俺は生まれも育ちも新丁。前職は市議会議員で、この共同浴場の社長もしていました。議員をもう一期頑張ろうと思っていたんですが、共同浴場が蓄えていた資金がなくなっているのがわかって。ちょっと待てよ、と。上山の原点である共同浴場の灯が消えたら、かみのやま温泉の灯も消えてしまう。それで苦渋の決断で湯番さんに辞めてもらいました。前は一日30〜40名しか入ってなかったから、そこに給料出したらやっていけなかった。入湯料が150円だからね。それで2019年の6月3日から私がやってます。一人で管理して、掃除してるけど、やりがいあるよ~。今は60~70名来るようになりました。Googleマップの口コミを見て来る人が増えて。日曜日は80名くらいになる。おかげさまで50名以上入れば経費も出せる。以前は電気代や水道料も数万という額だったけど、今はお客様に迷惑かけない程度の節約をして数千円に抑えている。これも経営学。どこがいいのか悪いのか、時間帯ごとに男女それぞれ何名来るのか。いつも来る人、たまに来る人。それに県外の人に対応を良くしていくと浸透していくんですよ。

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こだわりの純温泉

うちは塩素は入れてない。一日100名以上入る温泉は強制的に入れなければいけないんですが、ここは最大80名くらいだから。私は塩素が嫌いなんです。せっかくの効能を塩素で壊されたらたまったもんじゃない。上山で塩素入れてない純温泉はうちだけ。全国でも20数件しかありません。だけど、あまり言ってしまうと他の共同浴場に悪いから。と、言いながら言ってますけどね(笑)。その代わり清潔にしなければならないから、男風呂女風呂交互に毎日掃除している。今まで落ちなかった汚れも、いろんなもの使って何とか落として。それで地元の人も少しずつ戻ってきてくれた。温泉は気持ち良く入ってもらうのが原点だし、汚かったら疲れも取れねえよな。窓ガラスも綺麗にしたら青空も見えるようになった。お客さんからも「気持ちいい~爽快ですよ~」って言ってもらえる。

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お客さんと一緒に守っている場所

営業時間は朝6時からだけど、5時には入って調整してます。起きるのは4時半でございます。7時間寝ないとダメなんですけど、今5時間半かな。うちに帰ると22時半。ただ、俺が病気したり、風邪引いたりすればちょこちょこ休まなきゃならなくなっちゃう。だから絶対病気さんねなって。これまでは一切病気もしてないし風邪も引いてない。75歳だけど、体力には自信あるよ。一人でやってるけど、誰々が何時頃来るって頭に入ってるから、お客さんの顔を見るとホッとする。お客さん自身が共同浴場をなくしちゃダメだっていう認識が強くなってる。

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人間バカになると何でもできる

「お父さんの笑顔に元気もらいました~」って言ってくれる人もいます。ただ「いらっしゃいませ」じゃおもしろくない。入りに来る人は何か思い出を残していきたいだろうから。あとね、前の通りを封鎖してお酒を飲めるようにしたいのよ。温泉入って、ワインとかビールを飲んでお帰りになってもらうってことをやってみたい。そうすると酒のつまみがいるから、新丁商店街の魚屋さんとか肉屋さんにも出店してもらってね。楽しい場を提供するってのが商売人の心得だしさ。黙ってるだけじゃなくてアクションを起こさないとダメなんだよ。何でもね。人間バカになると何でもできるね。だからバカにならないとダメだなって。でもいい加減じゃダメ。ある程度きちっとしてやらないと。でも、誰かいないかな~俺の後継者。万が一俺がおかしくなった時に。あと10年いけるかわかんないからね。

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約束の時間に少し遅れてしまったが、鶴の湯に向かうと玄関先に不思議な動きをするおじさんがいる…。その方が浦山さんだった。話の途中、急に大きな声を出したり、ちょっとびっくりしたけど、とってもチャーミング。しかし、その笑顔の奥には、かみのやま温泉を守っていかなければならない、という強い決意が感じられた。浴場の入口には、浦山さんが考えた秀逸なお願い事の張り紙があるので、ぜひ実際に訪れてみて欲しい。

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